2021年08月28日
適格分割の要件(分社型吸収分割)
組織再編税制において、分割に関する税制適格要件は以下の3パターンにわけて整理されています。
分割法人と分割承継法人
- 分割法人:事業を分割する側の法人(分割対価を受け取る側)
- 分割承継法人:分割された事業を受け入れる側の法人(分割対価を支払う/交付する側)
会社分割の分類
分割は「分割対価を誰が受け取るか」と「分割により法人を新設するか」により、以下のように区分されます。
- 分社型:分割対価を分割法人が受け取る
- 分割型:分割対価を分割法人の株主が受け取る
- 吸収分割:分割により法人を新設しない
- 新設分割:分割により法人を新設する
これらをまとめると、組織再編税制における会社分割は以下の4パターンに分類されます。
分割のパターン | 分割対価を誰が受け取るか | 分割により法人を新設するか |
---|---|---|
①分社型 吸収分割 | 分割法人 | 新設しない |
②分社型 新設分割 | 分割法人 | 新設する |
③分割型 吸収分割 | 分割法人の株主 | 新設しない |
④分割型 新設分割 | 分割法人の株主 | 新設する |
本記事では上記のうち「①分社型 吸収分割」に関する適格要件を解説します。
完全支配関係(100%グループ内)再編の適格分割要件
以下の要件をすべて満たすと適格分割扱いとなります。
- 金銭等不交付要件
- 継続保有要件
各要件の詳細と当てはめ例は下表の通りです。
要件 | 概要 | 検討例 |
---|---|---|
①金銭等不交付要件 | 分割対価として 「分割承継法人の株式」 または 「分割承継法人の完全親法人の株式」 のいずれか一方の株式以外の資産が交付されないこと | ・分割対価は「分割承継法人の株式」のみであり、要件を満たす。 ・分割対価として現金を用いるため、要件を満たさない。 |
②継続保有要件 | 分割前に完全支配関係 があり、 分割後の完全支配関係 の継続が見込まれていること。 | ・分割後に株主が一部株式を売却するような予定はなく、 継続保有が見込まれているため要件を満たす。 ・M&A対象の事業を切り出す形で新設分割を行い、 新設会社の株式を譲渡する場合、 継続保有が「見込まれていない」ため、要件を満たさない。 |
>> 完全支配関係(100%グループ内)再編 / 支配関係(50%超グループ内)再編 / 共同事業(持分割合50%以下の法人間)再編
支配関係(50%超グループ内)再編
以下の要件をすべて満たすと適格分割扱いとなります。
- 金銭等不交付要件
- 継続保有要件
- 従業者引継要件
- 事業継続要件
- 主要資産負債引継要件
各要件の詳細と当てはめ例は下表の通りです。
要件 | 概要 | 検討例 |
---|---|---|
①金銭等不交付要件 | 分割対価として 「分割承継法人の株式」 または 「分割承継法人の完全親法人の株式」 のいずれか一方の株式以外の資産が交付されないこと | ・分割対価は「分割承継法人の株式」のみであり、要件を満たす。 ・分割対価として現金を用いるため、要件を満たさない。 |
②継続保有要件 | 分割前に支配関係 があり、 分割後の支配関係 の継続が見込まれていること *支配関係 発行済株式の50%超を、直接もしくは間接保有する関係 | 分割後に支配関係が解消するような株式異動等の予定はなく、 継続保有が見込まれているため要件を満たす。 |
③従業者引継要件 | 分割事業の直前の従業者のうち概ね80%以上が 分割後に分割承継法人(またはその完全支配関係法人) の業務に従事することが見込まれていること *従業者 役員・使用人その他の者で、 分割の直前において分割事業に現に従事する者 *従業者の判定 日雇形態:従業者の数に含めないことができる 出向受入者:事業に従事していれば従業者に含まれる | 分割直前の分割事業の従業者100名のうち95名(95%)が 分割後に分割承継法人の業務に従事することが見込まれているため、要件を満たす。 |
④事業継続要件 | 分割事業が分割後に 分割承継法人(またはその完全支配関係法人)において 引き続き営まれることが見込まれていること | 分割事業が分割後に分割承継法人において、 引き続き営まれる予定であり、要件を満たす。 |
⑤主要資産負債引継要件 | 分割により分割事業に係る主要な資産及び負債が 分割承継法人に移転していること | 分割事業に係る主要な資産A及び負債Bを 分割承継法人に移転しており、要件を満たす。 |
>> 完全支配関係(100%グループ内)再編 / 支配関係(50%超グループ内)再編 / 共同事業(持分割合50%以下の法人間)再編
共同事業(持分割合50%以下の法人間)再編
以下の要件をすべて満たすと適格分割扱いとなります。
- 金銭等不交付要件
- 継続保有要件
- 従業者引継要件
- 事業継続要件
- 主要資産負債引継要件
- 事業関連性要件
- 規模要件 or 経営参画要件
各要件の詳細と当てはめ例は下表の通りです。
要件 | 概要 | 検討例 |
---|---|---|
①金銭等不交付要件 | 分割対価として 「分割承継法人の株式」 または 「分割承継法人の完全親法人の株式」 のいずれか一方の株式以外の資産が交付されないこと | ・分割対価は「分割承継法人の株式」のみであり、要件を満たす。 ・分割対価として現金を用いるため、要件を満たさない。 |
②継続保有要件 | 分社型分割により交付される 分割承継法人の株式 または 分割承継親法人株式 の全部を分割法人が継続保有することが見込まれていること | 分割後に分割法人から株式異動等の予定はなく、 全株式の継続保有が見込まれているため要件を満たす。 |
③従業者引継要件 | 分割事業の直前の従業者のうち概ね80%以上が 分割後に分割承継法人(またはその完全支配関係法人) の業務に従事することが見込まれていること *従業者 役員・使用人その他の者で、 分割の直前において分割事業に現に従事する者 *従業者の判定 日雇形態:従業者の数に含めないことができる 出向受入者:事業に従事していれば従業者に含まれる | 分割直前の分割事業の従業者100名のうち95名(95%)が 分割後に分割承継法人の業務に従事することが見込まれているため、要件を満たす。 |
④事業継続要件 | 分割事業が分割後に 分割承継法人(またはその完全支配関係法人)において 引き続き営まれることが見込まれていること | 分割事業が分割後に分割承継法人において、 引き続き営まれる予定であり、要件を満たす。 |
⑤主要資産負債引継要件 | 分割により分割事業に係る主要な資産及び負債が 分割承継法人に移転していること | 分割事業に係る主要な資産A及び負債Bを 分割承継法人に移転しており、要件を満たす。 |
⑥事業関連性要件 | 分割事業と 分割承継法人のいずれかの事業とが 相互に関連するものであること *事業 「事業」とは、以下の3要件を満たすものをいう ・固定施設(事務所等)を有していること ・従業者がいること ・商品販売等の収益が生じていること *関連性 「相互に関連する」とは、以下の場合をいう ・同種事業 ・商品/資産/役務/経営資源が同一又は類似する ・分割後に商品/資産/役務/経営資源の相互活用が見込まれる ・分割後に商品/資産/役務/経営資源の一体活用が見込まれる | 【参考】 事業関連性に関する国税QA 分割法人が営む事務用品の製造卸売事業を、事務用品の販売業を行う分割承継法人へ吸収分割することによって、それぞれの事業が一体となってユーザーに直結した流通網の構築を目指して合理化を図るもの(相乗効果が生じるもの)であり、事業関連性がある。 |
⑦-1 規模要件 | 分割事業と 分割承継法人の関連する事業につき、 売上高 従業者数 これらに準ずるもの のいずれかの規模割合が、概ね5倍を超えないこと *売上高・従業者数は事業単位での比較 (合併と異なり、資本金による判定は不可) *「これらに準ずるもの」の例示として国税サイトにて「金融機関における預金量等、客観的・外形的にその事業の規模を表すものと認められる指標」が挙げられている *「⑦-1 規模要件」と「⑦-2 経営参画要件」はいずれかを満たせばよい | 分割事業の従業者数が100名、分割承継法人の関連事業の従業者数が300名であり、概ね5倍以内のため要件を満たす。 |
⑦-2 経営参画要件 | 分割前の分割法人の役員等と 分割承継法人の特定役員が それぞれ1名以上 分割承継法人の特定役員となることが 見込まれていること *「役員等」とは、役員及び社長/副社長/代表取締役/代表執行役/専務取締役/常務取締役/これらに準ずる者で、経営に従事している者をいう (特定役員と異なり、常務取締役以上ではなく、平取締役でも対象となる) *「特定役員」とは、社長/副社長/代表取締役/代表執行役/専務取締役/常務取締役/これらに準ずる者で、経営に従事している者をいう *特定役員のうち「これらに準ずるもの」として国税QAにて「経営の中枢に参画する事業本部長」が挙げられている *「⑦-1 規模要件」と「⑦-2 経営参画要件」はいずれかを満たせばよい | 分割法人の取締役Aは、分割承継法人において継続的に経営の中枢に参画する見込のため、要件を満たす。 |
>> 完全支配関係(100%グループ内)再編 / 支配関係(50%超グループ内)再編 / 共同事業(持分割合50%以下の法人間)再編